最近は、「●万円の壁」という言葉が流行っていますね。年収が103万円、106万円、130万円、150万円、それぞれを超えると、所得税や社会保険料が発生するというものです。下の日本経済新聞の図を参考にしてください。
■「年収の壁」のイメージ
出典:日本経済新聞|「年収の壁」対策、就労促進探る 年金改革など調整必要
また、SNSやYouTube上でも、「●●ハック」と称して、所得税や社会保険料を減らすためのノウハウ動画が溢れています。例えば、次のような動画です。
■【給料ハック術】残業を減らせば手取りが増える
「●万円の壁」も上の動画も結局のところ、就業調整を伴うものです。経営者がこれらを意識して経営するのはまだ分かりますが、従業員がこれらに踊らされるのは個人的に謎です。社会保険料の場合には特に、報酬額に応じて将来の年金額が増えるほか、いざというときに傷病手当がもらえる(多くなる)ことになるので、決して損しているわけではないと思います。そんなことに悩んでいる時間があるなら、年収を増やしていく方が生産的ではないでしょうか。私も大学生の頃、年末になると、アルバイト先でパートの方たちがタイムカードを押した後に、「●万円の壁」を超えないためにシフトを調整していたことを覚えています。私は、「おいおい、その無駄な打ち合わせの時間は無料でええんかい」と思っていたものです。
ライターをしていても、「節約」や「節税」という言葉が多くの方に響くことを実感しています。例えば、ZUU onlineで書いたiDeCoの記事では、iDeCoの「3つの税メリット」について解説しています。ZUU onlineは、金融メディアとして高い誇りを持っているため、編集者さんも、用語の使い方を理解してくれて大変ありがたく思っています。この記事も、最初提示された案では、「節税」が前面に打ち出されていました。しかし、3つのメリットのうち、掛金拠出時の所得控除(小規模企業共済等掛金控除)以外は、あくまで「優遇」です。「節税」の方が言葉的な響きはいいのですが、言葉の使い方には当然専門家として敏感になります。逆に言うと、「節税」「節税」と声高に叫んでいる記事には注意した方がよいです。
節税や社会保険料の削減方法に関する動画や記事が流行る理由の一つとして、これらに対する意識が希薄だったからではないかと考えます。そこに目を付けた専門家と、その動画に踊らされている国民という構図なのかもしれません。私はもちろん、節税や社会保険料の削減を否定しているわけではありません。あくまで「就業調整=節約」の風潮に対する問題提起です。私がiDeCoや企業型DC(選択制)を日頃おすすめしている理由も、就業調整を伴わない形で削減できることを、最後に強調しておきます。