間もなく終わりを迎える2024年。今年は「流行語大賞もいけるのでは?」と思うくらい、至るところで「NISA(少額投資非課税制度)」が話題になりました。NISAの抜本的拡充は、岸田前首相が掲げる「新しい資本主義」のもと行われたわけですが、今年2024年8月28日に策定・公表された「アセットオーナー・プリンシプル(以下、プリンシプル)」もまた、ぜひ注目していただきたいと思います。
「アセットオーナー」とは、公的年金、共済組合、企業年金、保険会社、大学ファンドといった、「運用資金の出し手」のことです。拠出する資金も巨額かつ、老後を中心とした私たちの安定的な家計資産の形成に向けて欠かせない存在であることは言うまでもありません。つまり、これらのアセットオーナーが市場で果たす役割の大きさを鑑みると、共通する行動原則が必要だよねということで策定されました。
本プリンシプルは、細かい規則が定められているわけでもなければ、受け入れるかどうかは機関・組織次第です。受け入れを表明したアセットオーナーのリストは、内閣官房のウェブサイトでも公開されているので、ぜひご覧ください。私の前職である、NTT(エヌ・ティ・ティ企業年金基金)は、2024年9月末時点ではまだ表明していませんが、3ヶ月を経て変わっているかもしれませんね。
本プリンシプルは、5つの原則から構成されています。
(1)運用目的と運用目標・運営方針
(2)体制整備と外部知見の活用
(3)運用方法の選択
(4)運用の「見える化」
(5)投資先企業の持続的成長
今回は、それぞれの項目までは紹介しませんが、自社の企業年金の受け入れ状況や、表明どおり適切に業務が実施されているかについては、経営層も把握しておいた方が望ましいと言えます。プリンシプルにおいては、母体企業はステークホルダーという位置づけです。一方で、確定拠出年金の実施主体はあくまで事業主であり、加入者等(加入者および加入者であった者)に対する「忠実義務」が「確定給付企業年金法」で定められていることも、忘れてはなりません。さらに、今年2024年11月1日に施行された「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」において「誠実公正義務」が加わりました。
大きな企業(グループ)になるほど、事業主としての意識が薄くなってしまう点は、私も日々感じるところです。しかしながら、企業年金の監督を新たな業務負担としてとらえるのではなく、経営力強化の観点から定義してみてはいかがでしょうか。
就職活動の際に福利厚生を重視する求職者も多い中、魅力的な企業年金は、新卒・転職市場における一つのアピールポイントになるかもしれません。給付水準の引き上げを通じて、加入者等に還元する動きも、最近見られるようになりました。そのほか、財務的な視点で考えると、運用実績が年金債務や業績にも大きく関係してくるだけに、企業年金の動向が決して人事部門の話に留まらないことが分かります。本プリンシプルの元になった「資産運用立国実現プラン(2024年12月13日)」でも、企業年金には母体企業の財務戦略・人事戦略ならびに年金財政運営状況等を踏まえた業務遂行が述べられている点に注目です。
資産運用立国実現プラン
4. アセットオーナーシップの改革
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(2)企業年金の変革
①確定給付企業年金(DB)の改革
(ア)資産運用力の向上 <課題等>
・ 確定給付企業年金(DB)が加入者の最善の利益を勘案しつつ誠実かつ公正に業務を遂行するためには、母体企業の財務戦略・人事戦略ならびに年金財政運営状況等を踏まえ、確定給付企業年金(DB)ごとに最適な運用方針を策定し、それに応じて適切に運用受託機関を選択するとともに4、企業の置かれた状況や環境の変化に応じて、定期的にその見直しを行うことが重要である。これに引き続き取り組むことに加え、経済・市場環境に新たな変化が生まれてきている中にあっては、その動向をみながら、期待収益率を検証し、必要に応じて資産配分の見直しを行うことが特に重要である。内閣官房『資産運用立国実現プラン』より
つまり、母体企業の経営陣による企業年金へのアプローチはむしろ望ましい姿と言えるでしょう。その際、本プリンシプルが企業年金を動機づける一つの材料になりうるだけに、今回経営層のみなさまにお知らせさせていただきました。さらに詳しい話を知りたい方は、お問合せフォームよりご連絡をお待ちしております。企業年金改革の動向等に関するセミナーも、随時開催が可能です。
【事前告知】
12月30日(月)に、𝕏(旧Twitter)で反響が大きかった、公的年金や確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)に関する投稿ベスト10を、当ブログで紹介する予定です。お楽しみに!