最近話題の企業年金改革。実際のところ、誰にどのような影響が及ぶのかよく分からないことが多いことかと思います。そのような背景に基づき、確定給付企業年金(DB)を導入している会社の経営層に向けた記事を先日出しましたので、まだご覧になっていない方はご覧ください。そこでは、事業主としての義務という側面のみならず、経営力強化の観点から注目すべきポイントを解説しましたが、「経営層の話だから関係ないや」で済ませるのはもったいないと思いませんか?

経営層のための「アセットオーナー・プリンシプル」

間もなく終わりを迎える2024年。今年は「流行語大賞もいけるのでは?」と思うくらい、至るところで「NISA(少額投資非課税制度)」が話題になりました。NISAの抜本的拡充…

私の期待は、労使間の対立を煽ることではなく、重要な労働条件の一つとして労使双方が認識を高め合うところにあります。企業年金における課題は、「アセットオーナー⇔事業主(経営層)⇔加入者(従業員)」三者間の情報格差であり、企業年金改革はそのギャップを埋めるためのものです。しかしながら、肝心な加入者(従業員)が企業年金のことをそもそも理解していないケースを、私も日々目の当たりにしています。「企業年金って何?」「私はDB、確定拠出年金(DC)、どっちに加入しているの?」「えっ、どっちとも加入しているの?」といった反応は日常茶飯事です。

DCの場合には特に、従業員みずからの運用成績が老後資金を左右することになります。それゆえ、DCの導入会社は、加入時および継続的な投資教育の実施が法律上の努力義務として課せられていますが、実施していない、または効果的な方法で実施がなされていないために伝わっていないのが実際のところです。このようなケースでは努力義務は満たしている一方で、事業主から加入者に対する「忠実義務」(確定拠出年金法)や「誠実公正義務」(金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律)を満たしていると言えるでしょうか?これらの義務を盾に(加入者の声を代弁する形で)適切な投資教育の実施を会社側に求めることは、労働組合として適切な行動と言えるでしょう。

また、DCでよく聞かれるのが「よい商品がない」という声です。最近は、低コストかつ市場に連動する形で長期的なパフォーマンスが期待される投資信託が、次々と世の中に登場していますが、何年も商品の見直しが行われていない会社も多くあります。商品を入れ替えてほしいと思っても、従業員がひとりで人事部に要望したところで簡単に決まる話ではありませんよね。当然、多くの声が寄せられていることを論拠にしたほうがよいわけで、労働組合が代表して働きかけることは有効な手段と思われます。今後、運用の「見える化」は、(DB・DCともに)企業年金改革の目玉として大きく前進することでしょう。他社と比較できる形で自社の運用状況や選定商品を目の当たりにし、加入者(従業員)にも自我が芽生えるかもしれません。その際、労働組合はどのような受け皿を用意できるのか。議論をする価値は十分にありそうです。

今回は、労働組合が企業年金に関心を寄せる意義について紹介しました。私自身これまで、組合員向けのセミナー講師等といった形で労働組合に携わってきましたが、今年2025年は労働組合関係者のみなさま向けにも、企業年金の動向や投資運用に関する情報等をお届けしてまいります。セミナーの開催等、お気軽にお問合せください。